松岡正海と私

天皇賞(春)の興奮冷めやらぬ中、香港QE2世Cにウインブライトと松岡正海が参戦した。「ウインブライトは中山専用機じゃないのか」「鞍上松岡で大丈夫なのか」…そんな雑音を振り払い、渋い人馬が海外の強豪を退けて堂々の優勝を飾った。

松岡にとっては実に10年ぶりのG1制覇だ。前回のG1勝利はマイネルキッツで制した天皇賞(春)。丸10年を経て、あの日と変わらないガッツポーズを見て、胸に熱いものがこみ上げてきた。

僕はマイネルキッツ春天から10年間松岡信者を続けている。競馬を始めたのが2009年。ビギナーズラックとは無縁の数か月を過ごす中で、初めて万馬券を持ってきてくれたのがマイネルキッツ松岡正海だった。軽そうな見た目で、年も自分より3つ年上なだけ。にもかかわらず、マイネルキッツの長距離適性を見抜き、春天に出すことを調教師に進言して見事結果を出すというしっかりとした一面も持つ。そのギャップに惹かれてしまったのだ。

今日は僕の10年間の松岡信者生活の中で、心にぐっと来た出来事を僭越ながら選ばせてもらった。

 

 

2009年 天皇賞(春) 優勝 マイネルキッツ

松岡と言えばこのレース。経済コースを取りながら、最後の直線のラチが切れたところで加速。これ以上ない騎乗で12番人気の低評価を覆した。レース後のインタビューでは開始早々「チョリース」を繰り出し、「G1で勝ったらインタビューでチョリースをする」という木下優樹菜との約束を守る律儀な一面も見せた。 


2009 天皇賞(春)

 

2010年 天皇賞(春) 2着 マイネルキッツ

昨年の覇者として相手を迎え撃つ立場となった松岡とマイネルキッツ。このレースで松岡は今までの後方待機策をやめて先行策を取る。前目でしっかりと折り合い、4角先頭で最後の直線に入る王者の競馬。最後の最後にウィリアムズが騎乗するジャガーメイルに差されるも、その堂々たる走りは多くの松岡信者を熱くした。ちなみに、ウィリアムズが尊敬する日本人騎手は松岡らしい。彼もまた、松岡信者の1人なのだ。


2010 天皇賞(春)

 

2010年 新潟2歳S 優勝 マイネイサベル、2着 マイネルラクリマ

1着マイネイサベルは松岡の低迷期序盤を支えた渋いお手馬。切れのある差し脚で何度も穴を空け、松岡信者を歓喜させた。最大のG1チャンスだった2013年のヴィクトリアマイルでは、肝心の松岡がまさかの騎乗停止で乗れず無念の3着。2着のマイネルラクリマ石橋脩騎乗だが、後に鞍上松岡で京都金杯を勝つ。これで松岡は前年の中山金杯コスモファントムと併せて東西金杯を制し、金杯男として存在感を示した。この年の新潟2歳Sは松岡信者には忘れられないレースの1つである。

 

松岡と骨折

松岡の長い低迷は落馬負傷がきっかけと言えなくもない。2011年は牝馬サウンドオブハート、牡馬でアルフレードというクラシックを狙えるお手馬がいながら、骨折で朝日杯と阪神JFに騎乗できなかった。朝日杯を鞍上ウィリアムズで優勝したアルフレードを松岡信者は複雑な心境で見つめるほかなかった。

<松岡の落馬・骨折>

2011年8月 落馬 左腓骨骨折 1週間離脱

2011年11月 落馬 右鎖骨骨折 4週間離脱

2012年1月 落馬 左足関節内果骨折 6週間離脱

2017年7月 落馬 左仙腸関節骨折、骨盤骨折 4週間離脱

2017年9月 落馬 異常なし(復帰直後に落馬)

2019年1月 馬に蹴られる 右尺骨骨折 4週間離脱

 

2013年 フェブラリーS 2着 エスポワールシチー

G1を9勝した名馬エスポワールシチー佐藤哲三のお手馬として有名だが、騎乗できない時は彼が信頼を置く松岡が手綱を取っていたのは知る人ぞ知るエピソード。この年のフェブラリーSは前年末に哲三が落馬負傷し、代役が手綱を取った前2走も大敗で人気もがた落ち。そんな中で松岡は、佐藤哲三を彷彿とさせる頭が低く尻が高く上がる騎乗フォームできれいに先行。最後はグレープブランデーに差されるもエスポ復活を印象付ける2着。哲三ファンをも熱くさせた。


2013 フェブラリーS

 

2014年 日本ダービー 3着 マイネルフロスト

松岡の全盛期はマイネル軍団の主戦騎手として君臨していたが、2012年頃から柴田大知にその地位を追われるようになる。2014年もマイネルの期待馬の依頼はほぼ来ない状況だったが、ダービーで毎日杯勝ち馬・マイネルフロストの騎乗依頼が来た。レースでは内枠を生かして経済コースを回り、最後の直線で前にいたトーセンスターダムが寄れてできたスペースを突いて加速。1,2着馬には差をつけられたが堂々の3着。単勝オッズ100倍越えの低評価を覆す激走に、松岡信者の鬱憤も少しは晴れたのではないだろうか。


2014 日本ダービー

 

2015年 アーリントンC 優勝 ヤングマンパワー、2016年 マーチS 優勝 ショウナンアポロン

松岡は2005年にウイングランツダイヤモンドSを優勝してから15年連続で重賞を勝っている。ほとんどがマイネル・コスモ・ウインの馬だが、2015年と2016年を単勝20倍を超えるこの2頭で記録を繋いでいるのは圧巻の一言。マイネイサベル引退からウインブライトデビューまでの、重賞を狙えるお手馬がほとんどいないこの時期を支えたこの2頭も松岡信者にとっては思い入れのある馬だ。

 

2016年 皐月賞 優勝 ディーマジェスティ

皐月賞を制したディーマジェスティ。デビュー前から調教をつけていたのは松岡で、ディーマジェスティの素質をいち早く見抜いた松岡は「これはダービーを目指せるだけの馬。キャプテンが乗ってくれ」と蛯名に薦めたという。勝負の世界に生きるものとして甘い、という意見もあるかもしれない。だが僕はこのエピソードに松岡らしさを感じてしまい、改めて松岡に惚れこんでしまった。惜しくもダービーを取ることができなかったのは本当に残念だ。

 

2018年 総武S 2着 リーゼントロック

松岡はベイスターズファンで有名で、始球式にも登場したことがある。そんな彼にとって、ベイスターズのレジェンド・三浦大輔の持ち馬に騎乗するのは格別な思いがあるのではないだろうか。2018年の総武Sでは1年以上勝利から見放され、OPでは通用しないとみなされたのか、10番人気に甘んじていた。レースではすんなり先行して2番手につけると、直線で逃げ馬を交わして先頭に立つ。センチュリオンの猛追を首差しのげず2着となったが、このレースをきっかけに復活し、OPや重賞でも馬券に絡む活躍を見せるようになる。

 

2019年 中山記念 優勝 ウインブライト

中山金杯をウインブライトで優勝し、幸先の良いスタートを切った直後、ぞっとするニュースが飛び込んできた。松岡がパドックで馬に蹴られて骨折したというのである。松岡が手塩にかけてきたブライトがようやく本格化、これから中山記念をステップに春のG1獲りへ…そんな夢が打ち砕かれそうになる中で、松岡の出した答えは手術をして1か月で復帰、中山記念もウインブライトの手綱を取る、という選択だった。G1馬が5頭そろい、相手も金杯から強化。松岡も病み上がり。マイナス要素を上げればきりがない中で、堂々の優勝。松岡を信じてよかった。心からそう感じた。


2019/02/24 中山11R 第93回 中山記念(GⅡ)【ウインブライト】

 

とりあえずこの10年間の出来事を書き連ねてみたが、書くほどのことではないことも含め、松岡には常に熱い気持ちをもらっている。10年ぶりにG1も勝った。次はグランプリ、クラシック、そしてダービー制覇だ。